意外にもユリの品種の原点は日 本にあり?
ユリといえば「オリエンタル」とか「カサブランカ」といった言葉をよく耳にするかと思いますが、前者がユリの系統名、後者が品種名です。品種名はもちろんですが、実は系統にもたくさん種類があります。
意外と知られていませんがその系統の元になっているのが、日本に古来から自生している以下の原種なのです。
鉄砲ユリ

筒状の花を横向きに咲かせる
アジアを中心に分布
ヤマユリ

漏斗状の花を横向きに咲かせる
日本に自生
スカシユリ

盃状の花を上向きに咲かせる
世界各地に分布
カノコユリ

下向きに咲き、花弁が強く反り返る
世界各地に分布
参考 : NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12ヶ月 ユリ
品種改良によって生み出された多彩な系統
オリエンタル・ハイブリッド(OH: Oriental Hybrid)
現在出回っているユリのうち、もっとも数が多いのがオリエンタルです。
大きく色鮮やかな花びらが特徴で、ユリといえばオリエンタル系を思い浮かべる人も多いかと思います。
リン数も少ないものだと3-4輪、多いものだと7-8輪なので用途に応じてうまく使い分けることができます。
花色としては白・ピンク色が多く家庭用はもちろん冠婚葬祭などの業務用でも広く用いられています。
主な品種としてはカサブランカ、ソルボンヌ、シベリアなどがあります。



業務用の白ユリの大本命で、大きさ・色・形のバランスが整っています。カサブランカ、ソルボンヌと共に長年ユリ業界を牽引している重鎮です。大抵花屋に行けばあります。
ああ
カサブランカ
ソルボンヌ
シベリア
トロントもそうですが、ユリの品種ではしばしば海外の地名が使われることが多いです。花の特徴だけではなく、品種名の由来などを知るのも面白いですよ。
ああ
アジアティック・ハイブリッド(AH: Asiatic Hybrid)
20年ほど前に大流行し、今でもなお根強い人気のある系統です。
オリエンタル系と比較して、リン数が少ない・丈が短い・花が硬いですが安価で購入できる上に香りも少ないため、アレンジメントの際に他の花を邪魔せずちょうどいい塩梅で生けることができます。花好園でも以前は栽培していましたが、現在はアジアティックとロンギフローラムを交配させたLA(詳細は後述)系統を主としています。
主な品種としてはシルバーストーン、トロント、オレンジココット(無花粉)などがあります。
シルバーストーン

トロント

オレンジココット

ロンギフローラム・ハイブリッド(LH: Longiflorum Hybrid)
別名「イースター・リリー」と呼ばれ、日本原産です。
テッポウユリ、タカサゴユリその他近縁種の交雑によるものです。細長い花型が特徴で、花色は基本白色のため仏用に使用される場合が多いです。 品種数は他の 系統よりも少なめです。
他の系統の交配によく用いられています(後述)。


日の本
ミヤビ
グローバルジャスティス

いわゆる鉄砲ユリで、鹿児島県の沖之永良部原産です。そのため、ユリの球根は基本海外からの輸入品ですが、日の本は鹿児島から全国に輸送されています。
LA ハイブリッド
30年ほど前に紹介された系統ですが、今やユリの系統の中で最多品種数を誇るほど普及しています。
ロンギフローラムとアジアティックを交配させており、ロンギフローラムの特徴であるトランペット型の花・花持ちの良さとアジアティックの特徴である鮮やかな花色を兼ね備えています。
最近では無花粉品種の開発も進んでおり、小柄な花型と相まって家庭用のアレンジメントにお薦めできます。
主な品種としてはリバーサイド、ロイヤルトリニティ、セラダなどがあります。

リバーサイド

ロイヤルトリニティ

セラダ
セラダ以外にも、LAの黄色品種にはヒノ、エルディボなどがあります。各品種ごとに微妙に輪のつき方が異なります。
ああ
OT ハイブリッド
オリエンタルとトランペット型咲き品種を交配させた系統で、今後の市場への普及がかなり期待されています。
花色の色鮮やかさはオリエンタルと類似していますが、トランペット型の花形をしています。さらに、オリエンタル系にはない黄色の花もあり、花色のバリエーションもあります。
花好園でも OH、LAに加えて数多く栽培している主流の系統です。
主な品種としてイエローウィン、 ティセント、マスターなどがあります。



イエローウィン
ティセント
マスター
サラッと説明しましたが、オリエンタル系との交配で黄色ができるのは結構すごいことなのです。ユリの育種も毎年進化し、常に新品種が作出されています。
LO ハイブリッド
ロンギフローラム系統とオリエ ンタル系統の交雑系統です。
オリエンタル系統のもつ香りと、小さな花型が特徴です。

プリンスプロミス

トライアンファター
ピンクプロミス

業界を賑わす2つのトレンド : 無花粉と八重咲き
ユリの特徴として、大きくて長細い花粉があります。花粉がついたまま鑑賞される方がいる一方で、花粉が成熟すると手や服につきやすくなり、敬遠する消費者もいます。そのため、出荷・販売する段階で予め花粉を除去する場合がありますが、この作業が案外手間。
そこで生み出されたのが、無花粉品種です。
手間要らず、ユリに馴染みのない方でも楽しみやすい品種となっています。

バンドーム

ベストリガーズ

ビバリーゴールド
参考 : 株式会社中村農園
無花粉=バンドーム、と言われるほど認知度が高く流通量も多い品種です。バンドームを脅かす次の品種は何になるでしょうか?少しワクワクしております。
また、一風変わった雰囲気を楽しめるのが八重咲き品種です。
2010年代から徐々に出始め、現在では約100種類程度もの品種が登録されています。
ユリの場合通常品種でも十分豪華さはありますが、八重咲きになるとより一層花のボリュームが増し、見るものを圧倒する凄みさえ感じられます。まさに、一本で主役になれる花なのです。
八重咲き品種にはローズリリー(RL)と呼ばれるものがあり、ユリなのにバラみたいな咲き方を楽しむことができます。なかなか花屋さんでも本数が出回らないので、一度でいいから実物を見てほしいです。
(ちなみに八重咲き品種は無花粉でもありますよ!)

サマンサ

アイシャ

アヌースカ
参考 : 株式会社中村農園
もう可愛いの一言に尽きます。だって花弁の縁だけピンク色なんですよ。もう可愛いじゃないですか(急に語彙力なくなりました)。
ああ
まるで白アスパラ栽培?
ユリの球根は食用のユリ根としても知られているため、茶碗蒸しとかに入っているものを見たことがある方もいるかもしれません。
そのため、ユリの球根と花(つまり栽培の最初と最後)は知っている人が多いですが、どのような形を経ているのかは意外と知られていないように思えます。

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栽培体系にもよりますが、オリエンタル系の球根を8〜9月の暑い時期に定植する場合、球根をそのまま植え付けるのではなく予め芽を伸ばしておくという作業を行います。この作業をプレルーティングと呼びます。
根を発達させてから植え付けることで、輪数の確保を狙うのが目的です。
プレルーティングを行なった後の球根の写真がこちら。

幼少期の頃はなんとなくこれがアスパラガスに見えて仕方がなかった思い出があります。
もちろんユリとアスパラガスはなんの関係もありませんが。。。夏限定の風景です。
その後ざっと写真の流れのように生育します。





花屋で手に入らない品種を、気軽にどうぞ。
花好園ではこれまでにチューリップ・フリージアなどの作物も作ってきましたが時代の変化に合わせて欠かさず栽培し続けてきたのがユリです。小規模の農家ではありますが、栽培技術・知識はどこにも負けないものであると自負していますし、実際ユリを手に取っていただければお分かりになられるかと思います。
ユリの球根は北半球はオランダ(抑制栽培・促成栽培)、南半球はニュージーランドやチリから輸入したものを使用しています。そのため、一般消費者向けの種苗業者やホームセンターでは取り扱いのない品種を数多く栽培しています。また、10~6月までの間切れ目なく出荷できるよう、微妙に球根の植え付け時期をずらしたりハウスごとに温度・換気条件を変えたりしています。
花屋で売られているユリが全てではなく、もっと広い世界が待っているということを知っていただければこれほど嬉しいことはありません。